6/21(水)サブゼミD班「グローバル・シティ」

6/21(水)サブゼミD班の1回目の発表内容についての報告です。

サスキア・サッセン(伊豫谷登士翁ほか訳)『グローバル・シティ:ニューヨーク・ロンドン・東京から世界を読む』(筑摩書房、2008/Saskia Sassen, The Global City: Newyork, London, Tokyo, 1991)

発表者は、中村、芦谷、今、武田、棚橋です。

第1章 本書について

第1章ではこの本で扱うテーマとグローバルシティの著者の定義を確認し、次章以降で具体的なグローバルシティで起こるグローバル化が空間への現れを見ていきます。

・4つのテーマ

 ①二重性ー経済のグローバル化で重要な機能の集積、分散と集中

 ②グローバルシティ内部に経済秩序への影響ー生産の場として特異な位置を占めること

 ③都市システムとグローバルシティの国民国家への関わりー経済活動の国際化による国家と都市の成長の分断

 ④新しい形がグローバルシティに及ぼす影響ー労使関係の再編による低賃金の労働

この4つのテーマをこの本では扱っていきます。

またグローバルシティとは

①司令塔の密集の場

②製造業に代わる金融セクター、専門サービスセクターの重要な場

③金融、生産サービスという主導産業における生産の場としての機能を有する場

④生み出された製品とイノベーションの売買の市場の機能を有する場

であり、このような新しいタイプの都市をグローバルシティといいこのような都市は、グローバル化が具体的な形で空間に姿を現し、重要な領域であると著者は述べ、次章以降で具体的に見ていきます。

                                   芦谷

第一部 グローバル化の地理学と構図を読み解く

第一部では、この本の基礎となる2つの論点と3つの関心から考察していきます。

★本節の論点

①金融業にとって重要な場 → 多国籍企業から主要な「金融のセンター」へ

②可動性と非可動性を両立させる複雑さを抱え込めるグローバル・シティの状況 → グローバル・シティの優位性を支える重要な要素

★本書の理論的関心

①資本移動と新しい集中の形影響を与えたのか

②金融業の拠点が大手多国籍企業から金融センターへ移ったことに、どう影響したのか

③いまのグローバル金融市場とこれまでの金融市場の違い

第二章 分散と新しい形の集中

第二章では経済活動の地理的な分散と集中を理解するために、資本の可動性とはなにか、概念的にひもとくことが目的です。

まずは、資本の移動からです。

資本移動が移動することは、単に経済活動の地理的な分散だけではないとサッセンは述べています。

資本が移動することに伴い集中・再編・所有の関係が生まれます。

①集中 = 資本移動に変化があると、それに付随して集中の形も変わる

②再編 = 大量の資本の国際移動を通して剰余価値を生みだしているもの

③所有 = 対外直接投資(FDI)や企業の吸収合併(M&A)、ジョイント・ベンチャーなどによって、国境を超えて行われる → 多国籍化

ここで述べられる資本とは、大きく分けて3つあります。

①金融資本(金銭・株式)

②物的資本(建物・設備)

③人的資本(労働者の健康状態・教育)

資本の移動を可能にするのは、場所を選ばずに移動しやすい点だけではなく、 技術的な条件が必要です。資本移動を可能にする技術とは、世界中に分散した生産システムを支配しつづける力になります。

次に資本の可動性と集塊についてです。

まずは、製造業の地理的分散から見てみます。

1980sを際立たせる特徴として製造の場が地理的に広がる現象がありました。

地理的な分散から、資本移動が問題になると 生産に関わる職(ジョブ)は労働力が安い国内外の地域へ移動します。

海外で生産、組み立てられたパーツが、総仕上げのために再輸入され、三都市の対外直接投資(FDI)に関する資料から、生産拠点が海外へ移り、製造業における生産プロセスが国際化しました。

  

これにより、重要となるのが「センター」の役割です。

巨大企業と生産者サービスは経済活動が分散するにつれて、「センター」に位置する本社の経営管理、計画立案、管理業務は膨大に膨れあがっています。

このような機能を果たすのに必要な財やサービスは、企業内で生み出しているものもあれば、他の専門企業から買っているものもあり、取捨選択できるようになりました。

最後に資本の可動性と労働市場の形成についてです。

近年、世界市場向けの多様な商品(衣料からエレクトロニクス部品まで)どこでも生産できるようになったため、 限定的な労働が必要とされています。

また、求められている労働力は生産プロセスの段階ごとに異なっていることから、労働市場の「センター」と「周辺」の関係性に新しい形が生まれています。

資本の可動性があがると、

労働市場の形成やグローバルな労働力の規制は影響される

②資本が国境を越えて移動することで、国際的な労働市場の形成(移民の流れも変化する)

→ 不定期労働の市場は不利な立場に置かれた外国人労働者の積極的な活用に乗り出す。特定の仕事で求められる高度な技能への需要も生じ、必要な技術さえあれば誰でも採用される可能性が生まれる。

③労働者の移動には、非熟練労働者と専門職労働者の場合があり、労働者が国境を越えて動く

本章の議論として、以下の2点が上がりました。

剰余価値について

剰余価値とは、労働者が実労働の価値よりの多くの価値を生産したものであり、その差額分から生まれる価値を剰余分と呼びます。剰余分が生まれることで、経済が膨れ上がるために価値に繋がります。経済が安定し、循環する仕組みになっています。

フォーディズム体制について

1960〜1970年代にかけて、国民経済の成長と利益にとって重要であった大量生産・大量消費の時代のことを指しています。

フォーディズム体制では、労使関係において組合の形成により、労働者の給与の安定や労働環境が整備されていました。

いずれの点も、グローバル・シティの前段階としておさえておかなければいけない点でした。特に、高度経済成長期以降の経済は空間の再編を伴いながら、成長をしていきます。

以上本章では、 資本の移動とはなにかを分析しました。

また、新しい経済のロジックとして、経済活動が地理的に分散するだけでなく、集積の新しい形で起きること、高給の専門職層が形成や多様な経済活動は不安定就業やインフォーマル労働へと切り替えられることで、 労使関係に変化が起こりました。

これらの要因は、生産と金融のグローバル化によるものであり、以降の章に続きます。

                                   中村

第3章 対外直接投資の新しいパターン

対外直接投資(Foreign Direct Investment=FDI)とは、外国の企業に対して、自国の企業が株式を取得したり、工場を建設して事業を行ったりする際の投資のことで、永続的な権益の取得(経営の支配)を目的に行われます。

この章の目的は、そのFDIを資本の再配置を示すわかりやすい指標と認識した上で、FDIのパターン/規模/関わっている国を資料から明らかにすることです。

まず、FDIを見ていく理由を具体的に説明します。

経済活動が全般的に国際化すると、貿易を通して製造業生産が国際化します。

すると、補助的活動(貿易や金融、会計や法律)への需要が生まれ、サービス産業が国際化します。サービスとは形を持たない財です。海外に提供するとなると、有形財であれば商品の輸出ができますが、サービスでは関連企業の設立といったような投資にならざるを得ないのです。とすれば、サービス産業が発展した当時においては、FDIを見れば、資本の動きや流れが掴めることになります。

(議論の中で、国際的なサービス取引の具体例として、ホテルが挙がりました。海外のホテルに泊まってお金を払うということもサービス貿易になります。この場合はサービスを輸入したということになります。)

本の中では、具体的な数値を通した検証がなされていますが、ここでは研究室での議論を紹介したいので割愛させていただきます。

膨大な資料分析を踏まえて、サッセンは20年間(1970~1990) のFDIの動きから、以下の7つのパターンを挙げ、国際投資が再編されていると結論づけています。

1.先進国から発展途上国への投資が減少し、先進国から先進国への投資が増加していること。

2.アメリカがFDIを行う側から受け取る側になったこと。

3.日本が受入国にならなかったが、主要送出国になってきたこと。

4.対象が第一産業からサービス産業に変化してきたこと。

5.全投資額のうち8割を10か国で占めるといった集積の傾向が見られること。

6.FDIの大半が先進国の多国籍企業によるものであること。

7.ほとんどが国境を越えたM&A(企業の買収・合併)からきていて、増加していること。

これに加えて、サービス貿易が成長しているからといって、商品貿易がないがしろなっているわけではないということと、サービス産業とともに金融業の重要性が上がっていることを強調していました。

以下、この章で挙がった研究室の議論を紹介します。

まず、サービス貿易で実際に起きた問題として、中国-台湾の例が挙がりました。誤解があったら申し訳ありませんが、中国が台湾にホテルを大量に建てたことに、台湾にお金が落ちないとして台湾の方々が反発したという内容だったと記憶しています。

また、日本が観光地化に力を入れているのは、貿易収支を黒字にしたいという目的があること。そこから、「旅行客を増やす」ということはサービスの生産活動であることを学びました。

質問としては、サッセンの挙げたパターン3の箇所について、「なぜ日本は主要受入国にならなかったのか」ということが出ました。

回答として、「日本はオイルショックでこけなかったために、労働賃金が高かった」という話から、投資国の選択基準についての話に移り、以下のように挙がりました。

・土地-アメリカは広くて安い。

・輸送コスト―安い方が良い。

・市場―安い人件費の労働力が集まる場所。

・制度―税金がかかるかどうか。日本はブロックしていた。

・言語―サービスはアメリカのような英語圏であればどこでも活躍できるのに対し、日本だと日本語のため需要は少なかった。

以上が主な話し合いの内容となります。無形財であるサービスが貿易されるとはどういうことで、現状のサービス貿易にはどういったものがあるのかということの確認と、FDIが偏る要因は何かという議論ができました。

                                    今

第4章 金融の国際化と拡大

金融業は1980年代に大きな変化を迎えましたが、その背景に規制緩和による国内市場の開放、主要金融機関の市場への参加増加による資金のフローの上昇、イノベーションの開発により金融資産が市場性の高い商品になったことなどがありました。

金融業を見ていく上での4つの着眼点

証券投資家と機関投資家の重要性の高まり

国際的な株式市場の形成

③1980年代に日本の投資家が担うようになった新しい役割

④1990年代の大規模な金融再編

以上を踏まえた上で金融業の規模や構成に見られた変化を見ていきます。

まず金融の成長の条件と要素を見ていきます。

石油収支が大きな活動を占めていた1970年代でしたが、金融の証券化によって多様な金融商品が生み出されていくと、アメリカの巨大多国籍銀行から、金融センターへと国際金融市場の主要な拠点が移り変わっていきます。

同時期に、規制緩和によって株式市場も国際化し株取引の活動の範囲を広げていきます。多くの国で株式市場(新興市場の台頭)が拡大していきますが、株取引は一部の国に集積してしまいます。

よって1980年以降、資金調達は銀行を通じてではなく株式市場において直接調達する時代になりました。

規制緩和と国際化による急速な市場の拡大で、競争は未曾有のレベルに達していきます。金融の証券化によって金融資産が流動的なものになったことが金融市場での取引が急増したことも背景にあります。

規制緩和、資本のフローの自由化、情報通信技術の発展によって拡大していったグローバル資本市場ですが、ここで金融の歴史が新たな段階に達したことを表しているのだろうか、また今日のグローバル資本市場の国民経済にしめる比重が以前に増して大きくなったということなのかということが問われます。グローバル資本市場と第一次世界大戦以前の金本位制(規模は同等の大きさだった)との違いが3つあります。

機関投資家が扱う資金の多様化、その資産価値の急上昇

新しい情報通信技術、速さや瞬時に通信ができ互いに接続されていること

金融イノベーションの爆発的な増加

1980年代より時代は金融の時代となっていきました。その時代以降の金融は、市場取引の場が一定の地域に集積している(1997年、全世界のGDPが計29兆ドルに対し北米、EU、日本の3地域のGDPは合計214千億ドル)金融商品とその実際のもととなる資産との間に距離のある商品が増えた(北米、EU、日本の3地域で466千億ドル相当の株式の資本家、債務の証券化68兆ドル分のデリバティブの発行)という特徴があります。

このように急成長を遂げたグローバル資本市場ですが、金融情勢に一新、急成長による自己規律の欠如(モラル・ハザード)によって、幾つもの金融危機が発生します。資本の流出入の管理はより複雑なってきており、国内機関投資家のより強固な基盤の発展が求められました。

まとめ

1980年代に金融商品証券化、市場の規制緩和が起き、多国籍銀行に代わりそれ以外の金融機関(投資会社や証券会社)が支配していき、主要都市が金融センターとして成長していきました。重要な事は、市場と主要な金融センターの重要性が金融再編と同時に高まったこと、金融市場の従来とは異なる新たな経済活動(投機的な金融商品の売買、新しい金融商品の開発)が活発になってきたことです。仲介機能を担っていた銀行はメカニズムは単純であり、一方で金融市場のメカニズムは複雑で競争が激しく、高いリスクを抱えています。金融センターではそれらを管理するための大掛かりなインフラが不可欠です。

                                    棚橋

グローバル・シティ 第5章 生産者サービス

これからの5・6・7章では第二部に入り、これまで第一部で見てきたようなグローバル経済の構成と地理学の変化の都市との関係性を見ていきます。

そしてこの章では生産者サービス産業と金融業の成長力、立地パターン、集積・専門特化・規制緩和の関係を分析し、最後に新しく現れる中心の場について考えます。

 

1-1.生産者サービスについて

サービス業は利用者によって2つに分類されます。

   消費者サービス(個人向けのサービス):サービスの利用者は最終消費者

   生産者サービス(企業向けのサービス):サービスの利用者は官であれ民であれ組織

ここで、保険・銀行・不動産業のように上記のどちらにも当てはまる業種が存在しますが、企業向けサービスの比率が高い業種はほぼ生産者サービスとして考えていきます。

 

1-2.生産者サービスの成長過程について

生産者サービスは以下のような段階をふんで成長していきました。

0.資本主義経済によって企業は規模の拡大を目指す

1.経済構造と企業規模の変化によって地理的な分散がおきる

2.分散によって経営管理が複雑化すると企業内部で専門的なサービスを生産する必要性が生じるが、コストがかかるために専門定なサービスのみを生産する外部企業(生産者サービス企業)からサービスを購入することによって自社で生産するよりもコストをかけずに利用するケースが増える

3.生産者サービスは専門特化と一般化によってはじめは一部の大企業しか利用できなかったサービスも中小企業や官庁などでも利用できるようになっていく

4.グローバル化によるさらなる企業の規模の拡大・専門化・多角化・国際化に伴い、生産者サービスの中間投入財としての利用はさらに増大する

このようにはじめは企業内部で生まれた専門的なサービスですが、そのようなサービスを専門的に生産することでコストを低くサービスを提供できるようになった生産者サービス企業は専門特化と一般化、そしてグローバル化による他企業からの需要によって大きな成長を遂げました。

 

1-3.生産者サービスの立地パターンについて

生産者サービス企業が立地を決める上で需要なのは2つあります。

1つ目は集積による利益です。生産者サービス企業は消費者サービスなどと違い、購入者に近接している必要はなく、専門特化した多種多様な生産者サービスが互いの近くに位置していることによって恩恵を受けます。

2つ目は市場の重要性です。垂直統合的な製品を中心とした立地から、水平ネットワーク的な市場を中心とした立地に集積の中心が変化しており、買い手・売り手の双方から中心の市場に集中させようとする圧力が生じ、生産者サービスが集積している地域にさらに生産者サービスの集積がおこります。

 

2-1.金融業について

金融業は生産者サービスに属していながらも他の生産者サービスと異なっている点が3つあり、それによって金融業の立地パターンには他の生産者サービスと異なったロジックが存在するとサッセンは述べています。

     市場:債務や資産が次々に商品化され、さながら商品市場のようになっている

     規制:政府によって立地や業務内容を厳しく規制されていた

     リスク:金融業の拡大に伴って様々なリスクが生まれ、リスクの管理が非常に重要になってきた

 

2-2.金融業の国内立地パターンについて

イギリスにおける金融業に関する研究から金融業の国内立地パターンを考えていきます。

まずロンドンのシティに金融業が集積する理由を突き止めた研究結果①②から次のことが考えられます。

     金融業に関連する経済活動への近接性に対して、肯定的な評価が与えられている

     重要な外部経済として、地域で得られる情報や知識が重要視されていた

→金融業は他の生産者サービスとは異なり、一般的な都市化の経済性よりもむしろ地域特化の経済性から利益を得ており、立地という点で互いに依存しあっている

次にイギリス国内の金融の立地パターンの研究結果から、都市階層のように金融のセンターにも似たような階層が存在し、その階層ごとにある特定の経済活動が集積していること確認しました。

 

2-3.金融業の国際立地パターンについて

ここでは第一版において情報技術の発展や規制の緩和によって金融業の立地の選択肢は以前よりも広がっているのではと考えたサッセンでしたが、実際にはむしろ狭くなっているという現状をうけて、サッセン自身がなぜ集積が進むのかについて研究し、導き出した2つ理由について理解していきました。

     社会的な連結性と中心機能の重要性

情報には中身は複雑化もしれないが入手は簡単な「一般化されている情報」と解釈・評価・判断を必要とする「一般化されていない情報」という2つが存在し、後者を扱うためにはインフラだけでなく複雑に絡み合ったインフラ以外の資源(一流の人材や最新技術が備わっているオフィスビルなど)が必要である

→専門知識・技術に加え社会的な結びつきが金融センターにはあるため、

技術によって可能になるつながりを、企業や市場は最大限利用することができる

     国境を超えるグローバルなネットワーク

過去と現在の国際金融システムの比較を通して、以前は金融システムが国ごとに併存していたが、グローバルな規模で市場統合が進み重複しているシステムは廃止されるようになっているとし、皮肉にも主要な金融センターの重要性が増しているため

→一握りの選ばれた市場のみを結びつける電子ネットワークの形成や金融市場の役割に応じた戦略的な提携など、いくつもの金融センターは競合しているのではなく、互いに協調し合い分業が成立している

 

3-1.中心性がつくられる新しい場について

最後にサッセンが示した中心性がつくられる場の4パターンを確認していきました。

ここは記述が少なく推測に頼らざる負えない部分があり、D班としての解釈は以下のようになりました。

     商業中心地区

     点と点が結ばれる形でできる中心:ネットワークなどによって浮かび上がる全体としての「TOKYO

     領域に縛られない「中心」:グローバルな金融システムのなかで国際的な役割を果たす証券所

     電子空間に現れる中心:ネット証券(物理的な場を持たず、電子空間に証券所が存在する)

 

最後の「中心」である場をめぐっては研究室で議論し、なんとか全体で共有できたのではと思います。

                                    武田 

第6章 グローバル・シティー 脱工業化時代の生産の場

本章では、グローバル・シティの経済基盤では再編が進行し主導産業が製造業からサービス産業への移行ではないということを主題におき、三都市を見ていきます。

着眼点として、グローバル・シティではある決まった役割を負わされているために、サービス産業と金融をみていき、両者新しい独自の変化をみます。

本章の目的は3つあります。

①三都市が作り上げている生産者サービスに適した立地の特定のために、生産者サービスの空間経済を分析

②生産者サービスと金融の場として三都市が担っている役割と、その役割の限界

③生産者サービスに焦点を絞り、三都市を比較分析し、それぞれの国の都市システムでどのような位置付けか

3つの目的から、生産者サービスの一般的な立地の傾向、都市間の階層化、生産者サービスと金融について分析、三ヶ国の生産者サービスの空間経済の中にロンドン、ニューヨーク、東京をそれぞれどう位置づけるかをみていきます。

生産者サービスのにおいて、三ヶ国の共通事項は以下の点です。

・国全体での生産者サービスの雇用の伸び率が、全産業における雇用の伸び率よりも高く、主要都市での生産者サービスの伸び率を上回っていた

・大都市圏の中でもさらに中心に位置する場で成長している生産者サービスと、地域全体で成長している生産者サービスではタイプの異なる可能性がある

・生産者サービスセクターの三都市の商業中心地区・金融街への過剰な集積

このような共通点から、まずはロンドンを見ていきます。

ロンドンの大きな特徴は、国内の生産者サービスが一地域に偏って集積している点です。これにより、地域内では分散し、地域の中心地とその周辺での産業の構成が異なっています。(中心部→金融・管理・文化的サービス。中心部外域→IT・コンピュータ・卸売・航空産業)

インナー・ロンドンには、管理・運営・サービスの直接の提供などの決まった機能が集積しています。

この集積の要因となるのは、莫大な人口を中心部で抱えていることによるものです。

インナー・ロンドンのシティには、ITのスペシャリストが多く集まり、世界をリードする場になっていることがわかりました。

次にニューヨークを見ていきます。

アメリカの場合、生産者サービスはニューヨークだけでなく、ロサンゼルス・シカゴなどの複数の主要都市に分散し、生産者サービスセクターは世界市場向けであり国際化が進行しています。

では、なぜニューヨークがグローバル・シティとして成長したのでしょうか。

ここでは、シカゴがグローバル・シティになれなかった理由について述べていきます。

かつてシカゴは一世紀以上にわたって、巨大な農工業複合体(農業を軸とした工業:製粉業・食肉産業など)の中心だけでなく、製造業を基礎とする都市経済を形成していました。

金融市場の起源はシカゴにあり、もともとは農工業複合体向けのものでした。

しかし、シカゴは金融市場でも雇用者の数が減り、金融市場はシカゴをグローバル・シティたらしめるほどの規模にはならなかったために、ニューヨークとの差がつき、国際市場からも離されたことが原因です。

最後に東京です。

東京では、1980年代に過剰に集積が行われる傾向がありました。

東京と日本の都市システムをみると、2つの点から東京の優位性を見えてきます。

①経済活動及び国の主導的な輸出セクターである製造業が重要性を失っていない

②国内経済を命令・統御する機能という東京が第一の役割を担っているため、国際的なサービス機能を担う場として他の都市が十分に発展していない

この2点から、東京以外の地域における人口の急激な都市化を支える中心的な要素であった名古屋・大阪は金融と保険においては1977年以降に東京に劣らず過剰な集積が行われていたが、生産者サービスの点では、東京への過剰な集中が確認できました。

東京は地価や賃金などのコストが高いにも関わらず、東京に本社機能を置く企業へのアンケートによると「投資資本と金融投資の調達」、「支社や工場を監督する中心的な場」「財の入手のし易さとマーケティング」などがあがり、その周囲へ付随する生産者サービスのなかでも競争があり、価値を高めていることがわかりました。

以上の点から、三ヶ国の生産者サービスの空間経済は国全体で分散する形で急速な成長があり、特定の地域への過剰な集積が確認できました。また、主要な都市への過剰な集積では、タイプの異なる地域で生産者サービスがどのように構成されているのか、グローバル市場への志向性が強い都市と他の三都市への差が生まれたことがあげられます。

議論のなかで、なぜサッセンはこの三都市にしか焦点を当てていないとか?という質問がありました。パリやフランクフルト、アジアでは急成長を遂げている上海や香港があげられますが、D班の見解としては、証券取引所での取り扱い規模が膨大であることがひとつの要因としてあげられます。国境を越えた都市間の相互依存という新しい形が生まれたために、都市間の競争だけではなく協力体制が整えられたことで、世界経済の中心を担っている存在としてニューヨーク・ロンドン・東京があげられると思います。

                                   中村

第7章 グローバル都市システムをつくるもの ネットワークと階層

第7章ではニューヨーク、ロンドン、東京の3都市が互いにどのように関係しグローバル市場と繋がっているのか、3都市と他の主要都市の関係性についてを見ていきます。

まず、金融はネットワーク化されたシステムによって国際化し、都市階層の高い都市により一層外資系サービス産業や金融企業が集積してきています。

ネットワークの越境的成長により

規制緩和された金融センターのグローバル市場の統合

② 国際金融センターの出入口としての機能

金融危機が発生した際の出入口としての機能

④ グローバル金融システムでの各国の協力

⑤ 資本の重要な出所である東京

⑥ 様々な世界が交錯する場−香港

⑦ 電子的ネットワーク数と規模の拡大

といったことが起こり、金融センターは複雑な構造の一部に過ぎないことがわかります。またこのような構造の中に更に複雑な構造が作り上げられていると著者は述べています。

金融センターがグローバル市場に統合され、資産の集まる地域にばらつきが生じ、センターの中でも主導的な位置に存在する場へ過剰に集積がなされています。株式市場ではニューヨーク、ロンドン、NASDAQの3市場に主要な株式市場に上場している世界中の外資系企業の44%を占め、運用資産の集積、生産者サービスの国境を超えるネットワークの中で特殊な地域的連携や組織的連携を必要とし、生産者サービスの集積が見られ、他にも金融、保険の集積が見られます。

1980年代の主要都市での地価の急騰が起こります。この地価の高騰は、経済の空間的構成が新しい段階に入ったこと、その空間構成において都市がどのような役割を果たしているかの現れであると筆者は述べています。金融とビジネスのネットワークに統合される都市で中心部の地価が急騰した新興都市(マグリッド、ストックホルム、ダブリン)もあり多くの都市の地価が上がったことがわかります。金融企業やサービス企業だけでなく、高給専門職層が主要都市で急増したことが原因でこれだけの不動産市場が高騰したと考えられます。また国民経済全体の状況と無関係になり、都市の中心部でのみ土地の売買がなされるようになります。周縁とみなされている土地は建築家などにより再生され、「中心」へと再構成されます。中心部とその他の地域には地価に非常に大きな開きがあり、格差があった。1980年代以降、都市の中心部で国際的な不動産市場が発展します。また別の条件として機関投資家の金融市場への参入や主導的な役割を果たす市場の有無によって国際的な不動産市場が形成されます。さまざまな国の建築家による建造物の建設で都市の中心部の価値上昇や、都市の独自性の創出が可能になりグローバルシティの機能を担う準備が可能となると著者は述べています。

都市中心部の不動産開発のうち、所有者も出資者も金融業であるものがどの程度あるのかが重要であり、ロンドンのシティの不動産市場の構造の特徴は金融サービス企業が建造物の利用者と所有者を兼ねている点です。利用者と所有者が一致することで不動産と金融セクターの関係は強くなり、価格の変動も増幅されます。国際的な不動産市場は、不動産投資信託のような機関投資、不動産賃貸といった形での金融等の新しいタイプの取引によってさらなる強化と発展をしていきます。国民経済の様々な状況に左右されない国際不動産市場において建造物は商品化され売買が可能となります。

国際的な金融取引の大幅な拡大、グローバルに広がるネットワークへの株式市場の一体化、生産者サービスの国際的な市場の成長は多くの主要都市で経済基盤に組み込まれてきています。こうした取引や市場は、ニューヨーク、ロンドン、東京、パリ、フランクフルト、香港といった都市に過剰に集積しています。このような都市では中心部の土地の使い方が変化し、住宅やホテルが増加し、主要な生産者サービス企業だけでなく、多様な商品市場や通貨市場が集積している場です。特定の都市への過剰集積によって越境的なネットワークに加わるグローバルシティが増え、このネットワークがグローバル経済の組織的構造を支えています。

                                 芦谷